着物を優美に彩る 京友禅の職人技

美しい文様が描かれている着物。手法は、「織り」と「染め」に大別される。「織り」とは、染めた糸を用意し文様にあわせて糸を変えながら布を織ること。反物として仕上がった布を縫って着物の形に仕上げる。一方、「染め」とは、白い布に文様を直接染める方法だ。

「友禅染」とは、日本で最も代表的な染めの技法。友禅染よりも歴史の長い「織り」の場合、いうなればドットで描くコンピュータグラフィクスに近く、経糸と緯糸という直線を精密に組み合わせることで文様が描かれる。無論、高度な技術により繊細な曲線も自在に描くが、友禅染はさらに優雅な曲線を使った文様を染めることを可能にした技法だ。下絵の輪郭線に極めて細く糊を置き、その内側を絵筆などで染める。この技法により、曲線は人の手によって描かれるわけだからより優美に、また糊が仕切りの役目を成すので隣り合う色同士がにじむこともない。ゆえにより精彩に文様を描くことができる。

友禅染の誕生は江戸・元禄時代(1688-1704)。京都・祇園に居を構えていた扇面絵師・宮崎友禅斎によって考案されたと伝えられる。京都で生まれた友禅染は、その後各地に伝わったが、なかでも「京友禅」は、その華やかさ、優美さで世界から高い評価を受けている。

 

手描友禅の工程

手描友禅は、多くの専門職人による分業制を採る。まずは、図案の作製(写真1)。古典的なものから斬新なものまで柄行きは様々。4分の1のサイズの紙に描く。次に下絵(写真2)。着物の形に縫った白い生地に図案を写す。図案を拡大してそのまま写すのではなく、職人が図案を見ながら生地にフリーハンドで描く。着姿を考えながら柄の大きさ、位置を決める。この時「青花」とよばれる花から取った液で描く。青花の栽培は近年減少しており、とても貴重なものだ。下絵を描き終えたら、着物を一旦ほどく。そして、下絵の輪郭線に沿って糊を置いていく(写真3)。
ひとつの反物からつくられる着物は、両端で色の濃さに差があってはならない。柄の部分を糊で伏せた後、地染の工程では、13~15メートルもある生地を刷毛を使って、素早く均一に染める。(写真4)
そして彩色(写真5)。友禅では「色を挿す」と表現し、手描友禅の工程の中で最も技術を要する工程である。彩色を終えた生地は蒸して色を定着させ、水で洗う。友禅染が終わった生地に、刺繍(写真6)などで装飾を施して完成となる。

 

余白の美をまとう

京都・三条烏丸の交差点を少し西に入ったところに建つ[千總]は、創業1555年の京友禅の老舗。日本の伝統的な文様を描いた着物を中心に、その技術やデザイン力を生かした様々なアイテムを世に送り出している。
「着物を着ている女性は本当に美しいですね」。そう話すのは、ジョン・ベンソンさん。1977年に英会話講師としてアメリカから来日。それ以来、京都に暮らしている。「ええ、日本らしい美しさですね」と笑顔で答えるのは[千總]の社長を務める仲田保司さん。旧知の間柄だというふたりに、友禅染の着物について話を聞いた。

ベンソンさんに、着物の印象を尋ねると、「着物をじっくり見てみると、文様のない空間も美しい。日本では“間”といいますが、間の取り方、美しさが日本的だなと感じます」。ベンソンさんの言う「間」の美は、日本文化に多く見られる特徴だ。「間」とは、「余白」とも置き換えられるかもしれない。それは何かがかけている状態ではなく、あえて創った空間のこと。茶道に華道にも、ひいては武道にも当てはまる。「アメリカ人であるジョンが、模様のない部分を美しい“間”として認識してくれたことは大変嬉しいですし、興味深い感覚ですね」。仲田さんはいう。

 

仲田さんはこうも話してくれた。「友禅染は、扇子の絵師だった宮崎友禅斎が始めた手法だと言われていますが、私はそうは思いません。元禄時代、友禅斎の絵は非常に人気がありました。ですから、彼の絵を扇子だけでなく、他のアイテムにも使いたいと考えた人がいただろうということは想像にたやすい。彼は一絵師ではなく、アートディレクターのような人だったのではないか、と私は思うのです」。友禅斎の絵を着物にするとき、縦横の糸が織りなす直線を駆使するのではなく、直接描いたらいいのではないか。そう考えた職人が試行錯誤しているうちに、輪郭線に糊を置き、マスキングをすることを思いついたのではないか、と仲田さんは話す。「つまり、友禅染は、友禅斎による染め、ではなく、友禅斎の絵を染めるための技法だったのではないかと思うのです。その時代のトレンドを強く意識するアート集団がきっといたのでしょう」。

現在も友禅染には多くの職人が携わる。[千總]は本来、その職人たちを束ね、着物という商品を作り上げる立場だが、現在はそれだけにとどまらない。例えば友禅染のデザインや技術を活かして、他のファッションアイテムをプロデュースするなど、現代にあったプロデュースを実践し、20年以上前からパリコレクションにも登場するなど、世界で高い評価を受けている。

 

■仲田保司
株式会社千總の代表取締役社長。大学在学中から起業家として活動し、1997年に千總入社。伝統ある企業としての特色を打ち出しつつ、時代に合わせた現実的な改革を続けている。

■John Benson
米国、ミズーリ州出身。1977年来日、京都在住。京都の英文情報誌の編集長を経て、フリーライター・翻訳家に。日本国内の英字紙、ウェブサイトなどへの執筆多数。日舞の踊り手でもある。

▼千總
住所:京都市中京区三条通烏丸西入ル御倉町80
TEL:075-211-2531
http://www.chiso.co.jp/

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