なぜ、茶道は人の心を惹きつけるのか?

抹茶(MATCHA) —— 今では世界共通語ともいえるほど有名な日本語だ。日本で日常的に飲まれている「お茶」は、茶葉を煎じたものに湯を注いで淹れるが、抹茶は違う。茶の葉を石臼で挽いてサラサラのパウダー状にしたものが抹茶で、そこに湯を注ぎ入れ、素早くかき混ぜて飲む。日本にはたくさんの種類のお茶があるが、茶葉をそのまま飲むのはこの抹茶だけだ。

抹茶といえば、着物を着て、静かな和室で、正座をして飲むもの…と難しく考えてしまう人もいるかもしれない。けれど、抹茶は先にも述べた通り、抹茶の粉末にお湯を注いでかき混ぜるだけという、簡単なステップで点てることができる。
大きな茶碗に映える美しい緑色が目を楽しませ、きめ細やかな泡が喉をやさしく通る。飲み終えると、日本茶特有の甘みと香りが心をほっと落ち着かせる、そんな飲み物だ。

京都に住む人のなかには、お気に入りの和菓子とともに、ティータイムを楽しむように気軽に抹茶を楽しむ人も多い。和菓子屋に併設された茶房などでは、良質な抹茶を提供しているところもたくさんあるので、京都を訪れたら、まずは抹茶の味を堪能してほしい。


「茶の湯」の世界からみる日本の精神

抹茶はいうまでもなく、日本独特の文化「茶の湯」の中心だ。茶の湯とは、茶室という小さな部屋に非日常の空間を用意し、一碗の茶を通して、もてなす側ともてなされる側の一体感を感じようとする。

京都・大徳寺にある黄梅院。大徳寺とは国内有数の規模を誇る禅宗寺院で、茶の湯とのゆかりが深いことで知られる。なかでも黄梅院には、現在の茶の湯(侘び茶)を完成させた千利休による庭があり、また千利休に先立って、侘び茶を進化させた武野紹鴎による茶室があるなど、茶の湯を知る人にとっては特別な場所だ。通常は入ることができないこの黄梅院で実際に茶を点ててもらいながら、茶の湯を愛する2人に話を聞いた 。

この日のもてなし側はランディー・チャネル・宗榮さん。カナダ出身で、京都に暮らしておよそ30年。そもそもは、武道を学ぶために来日したが、「文武両道」を目指すべく茶の湯の道に入る。その後、茶の湯の流派の一つ「裏千家」で教授の資格を取得。家元より「宗榮」の名を受けた茶道家だ。
茶の湯では、亭主がその日の客のことを思い、茶室の準備をする。床の間に掛けられた掛け軸にはその日のテーマが掲げられることが多い。この日の軸は「無事 日々是好日」。「今日という日に感謝し、何かが起きても起きなくても良い日だ」という意味の言葉で、「今日のお客さまへの思い、そのままです」とランディーさん。その下に、季節の花である椿がそっと飾られていた。道具類はもちろん、水にも気を配る。この日の水は、京都御苑のすぐそばにある梨木神社で汲まれたもの。名水として名高い水で、ランディーさんが今日の客を思って自ら汲みに行った。

「茶の湯の楽しみ方は人それぞれ。亭主はその日のお客のために、心をつくしてさまざまなものを用意し、そして一碗の茶を心を込めて点てます。客は、その空間を思い思いに楽しみましょう。同じ空間でも、静かで落ち着く空間だなあと思う人と、ああ、なんてドキドキする空間なのだろうと感じる人がいてもいいのです」。そして、その場にいる人全員の思いが、ふとひとつになった時に茶の湯はクライマックスを迎える。
とはいえ、「ありのままを感じる」のは、少々難しいようにも思われる。ランディーさんに、茶の湯を楽しむ際のポイントを聞いた。
「私自身が好きなのは所作の美しさ。効率的でありながら芸術的。すべてに意味を持たせながら、最小限の動きで全体が統一されている。亭主の動きをまずはじっと見てみる、というのはどうでしょう」と教えてくれた。

一方、この日、ランディーさんのしつらえた空間に招かれたのは、京銘菓「八つ橋」の老舗で育った鈴鹿可奈子さんだ。幼い頃から両親とともに茶会へ出席するなど茶の湯に親しんでおり、現在も仕事の合間を見つけて、茶の湯の稽古を欠かさない。「私にとって、お茶と向き合う時間はとても大切。日常の喧騒から少し距離を置いて、茶の湯に向かうことで自分の軸を取り戻すことができ、また心がフラットになる。私の生活にとって欠かせない時間です」。

ふわりとした愛らしいお客さまへ、ランディーさんが供した和菓子は、桜の花をあしらった美しく、そしてやわらかなもの。それを愛でながら鈴鹿さんは言う。「茶の湯を楽しむポイントのひとつに、五感を敏感にすることが挙げられると思います。目で見る美しさ、舌で感じる味わい、香り、手触り、かすかに聞こえる湯の沸く音…。五感すべてでその空間を感じていると、次はどんなことが起こるのだろう、とワクワクする。茶の湯は決して堅苦しいものではありません。五感で楽しむ粋な遊びなのです」。

京都には茶道を体験できる場も多い。全身のアンテナを研ぎ澄ませて、その空間へ飛び込んでみよう。茶の湯の魅力が理解できると思う。



■ランディー・チャネル・宗榮
カナダ出身の茶道家、武道家。茶道の流派の一つ、裏千家の教授で、京都をはじめ、日本各地で茶道教室を開催。また、茶と触れ合えるようにと築100年を越す京町家でカフェ「らん布袋」をオープン。その他講演活動など多数。

■鈴鹿可奈子
1689年創業。京都の銘菓・八つ橋の老舗「聖護院八ツ橋総本店」専務取締役。大学時代にアメリカ・カルフォルニア州へ留学し、1年間経営学を学ぶ。両親に連れられてお茶会へ行くのが好きだったという少女時代を過ごし、現在でも月に数回の茶道の稽古は欠かさないという。


▼大徳寺 黄梅院
住所:京都市北区紫野大徳寺町83-1
TEL:075-492-4539
※通常非公開

 

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