暖簾の奥のノスタルジックワールド 銭湯(1)

日本の公衆浴場「銭湯」は、少し不思議だ。体を洗う場所なのに、建物や浴室には趣向が凝らされ、まるで「サムライ」の時代の日本を訪れた気持ちになる。今、日本では日本の庶民文化の結集ともいえる銭湯があらためて注目され始めている。
日本がまだ武士の世だった17世紀以降、銭湯は日本の庶民生活に欠かせないものだった。人々は銭湯で一日の疲れを癒し、また近所の顔なじみと親交を深めた。しかし1960年代以降、内風呂の増加に伴い銭湯は激減。京都で1955年には600軒近くあった銭湯も、今では110軒ほど。けれど今、この銭湯が日本の伝統文化、それも庶民の文化が感じられる街なかの特別な空間として見直され始めている。

「京都の銭湯の特色は、一軒ごとに個性があること。とくに浴室のタイル絵の多様さには驚かされます」。24歳の若さで2015年5月、銭湯経営の世界に飛び込んだ湊三次郎さんはいう。湊さんの経営する「梅湯」の浴室には大きな噴水があり、脱衣所には客を手招きする猫や風呂に入る猿の置物や近隣の作家が作った雑貨が並ぶ。この雑多な雰囲気も梅湯の個性の一つだ。自身も無類の銭湯好きだという湊さん。大学時代には同好会を立ち上げ、全国の銭湯を自転車で巡った。梅湯が廃業すると聞いて、矢も楯もたまらず引き継いだという。

 

 

一方でこんな声も聞かれる。「外国人にとって銭湯は、最初は少し気恥ずかしいだろう。けれど、きっとすぐに好きになるよ」。フランスから京都へ住まいを移した画家、Yann Le Galさんだ。「建築は日本らしくとても繊細な美しさ。そして何より、出会う人がいい。地元に暮らす人たちと触れ合える貴重な場所だ。日本以外にも公衆浴場はあるけれど、日本の銭湯のような人との関わりはない。銭湯は、公園ともカルチャーセンターとも違う不思議なコミュニティだと思う」。

さらに湊さんはこんな風に話す。「銭湯にはさまざまな人が来ますが、帰るときのお客さんはきまって笑顔。銭湯の経営は決して楽なものではないのですが、それを見ているとやっぱり銭湯はいい場所だと思いますね」と。銭湯の魅力を理解するには、まず銭湯を訪れることから始まるに違いない。

 

銭湯談義に花を咲かせた、対談を行ったYann Le Galさんと湊三次郎さん

銭湯談義に花を咲かせた、対談を行ったYann Le Galさんと湊三次郎さん

 

■湊三次郎

1990年生まれ、静岡県浜松市出身。京都・五条にある「梅湯」主人。大学入学を機に京都へ。学生時代には自ら銭湯巡りをする同好会を立ち上げ、当時180軒ほどあった府内の銭湯すべてを訪れたという経験の持ち主。

■Yann Le Gal
1973年生まれ、フランス・Saint Ouen出身の画家。1999年、25歳(歴代最年少)で「ルノアール ファウンデーション大賞」受賞。2012年渡日。京都・西陣にアトリエを開設。「京都人ポートレイト100」、京都銭湯芸術祭への参加など京都をテーマにした作品づくりに取り組んでいる。
▼梅湯
住所:京都市下京区木屋町通上ノ口上ル岩滝町175
TEL:080-2523-0626
営業時間:15:30~23:00
定休日:木曜
入浴料金:¥430
禁煙(外に喫煙スペースあり)
無料WiFiあり

▼アクセス
京都駅から市バス乗車、「河原町正面」より徒歩約5分。または京阪「清水五条」駅から徒歩約10分。

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