日本三大酒処、伏見の日本酒の魅力とは?

日本三大酒処、伏見の日本酒の魅力とは?

世界最大級の旅行サイト「トリップアドバイザー」外国人に人気の日本観光スポット部門で第1位に選ばれた伏見稲荷大社の建つ京都・伏見は、日本屈指の酒処としても知られる。伏見最古の酒蔵「増田德兵衞商店」の第14代当主・増田德兵衞さんと、伏見で日本酒を楽しむ「JD会」を主催するJason Davidsonさんに、伏見、そして日本酒の魅力を聞いた。

京都駅から電車で2駅のところにある伏見稲荷大社は、日本各地に約3万社あるという稲荷神社の総本宮で、商売繁盛のご利益があることで有名。創建は711年、古い社寺が多い京都のなかでも、とりわけ古い歴史を持つ神社の一つだ。
伏見稲荷大社を訪れる人びとを驚かせるのが、赤い鳥居が延々と続く「千本鳥居」。ご祭神への祈りと感謝を込めて、鳥居を奉納する慣習が江戸時代には既にあったとされ、長きにわたって多くの崇敬者が納めた鳥居が連なってできたもの。伏見稲荷大社は、稲荷山一帯にいくつもの祠や塚がある。「千本鳥居が有名ですが、山の中腹にある四つ辻からの眺めもいいですね」と増田さん。ジェイソンさんも「山の中を歩いていると不思議なパワーを感じます」と話す。境内のいろいろな場所にある白い狐は、稲荷神社の神様のお使い。さまざまなものをくわえているので、それを見ながら歩くのもおもしろい。

伏見は質の良い地下水が豊富なことでも知られる。近鉄・桃山御陵前駅近くの御香宮神社境内には、「日本名水百選」にも選ばれた名水「御香水」が今でも絶え間なく湧き出している。この地下水の恩恵をうけて、伏見は兵庫県の灘、広島県の西条と並んで、日本三大酒処に数えられる。「伏見の水は、ミネラルをバランス良く含んだ中硬水。柔らかな味わいときめの細かい口当たりが特徴です」と増田さんは言う。ちなみに灘の水は硬水。伏見とは対照的なきりりとした味わいの酒ができる。

現在、伏見には23の酒蔵がある。日本酒づくりの指揮監督をするのは「杜氏」。杜氏は、酒づくりの季節だけ酒蔵にやってきて、数ヶ月間泊まり込みで働く。酒蔵を経営する「蔵元」の指示のもと、酒の味を決め、蔵人たちを動かすのだ。「酒は生き物ですから、毎年同じようにやっていてもできるものはまったく違う。その辺りはワインに似ているかもしれません」と増田さんが言うように、米の具合、麹の様子、天候など、毎年異なる条件のもと日本酒は作られている。近年は数値化されている部分もあるが、最後の決め手は熟練による勘だという。増田さんはこう続ける。「とはいえ、水の成分はずっとほぼかわりません。酒は水で決まりますから、上質な水が、その質を変えることなく湧き続けていることは、とてもありがたいことです」。

 

米から生まれる奇跡の味

言うまでもなく、日本酒の原料は米だ。ワインはぶどうを発酵させて作られるが、米はそのままだと発酵しないので、酒づくりにはカビの一種、麹菌を使う。この麹は味噌や醤油を作るときにも使われるもので、日本の食文化には欠かせない。 日本酒づくりの工程を簡単に説明しよう。まず、米を精米して蒸すのだが、この精米の度合いによって酒のランクが変わる。最もランクの高い大吟醸酒は、玄米を50%以下に、次の吟醸酒では60%以下に削る。精米の度合いが大きいほど雑味のない味がするが、雑味を楽しむ人もおり、楽しみ方はそれぞれだ。

米の精米歩合で酒のランクが異なる

 

蒸した米に麹菌を撒いて繁殖させて「麹」を作ったら、蒸し米と水、酵母菌を加えて発酵させる。できたものが、酒の母「酒母」だ。酒母にさらに蒸し米と水を加え、およそ1ヶ月かけて発酵させて、ろ過。さらに熟成させて、低温で殺菌したのちビンに詰める。もっとも重要な工程を増田さんに尋ねると「すべて」と返ってきた。美味しい酒を絞るためには、良い麹を作らねばならない。良い麹のためには、米によく水を吸わせてから蒸さねばならない。すべての工程は繋がっており、すべては求められる味へと繋がるのだ。
伏見の町を歩いていると、酒蔵の軒先に丸いものが下がっているのを見かける。これは「杉玉」といい、新酒が出来た印に蔵人たちが吊るすものだ。

酒蔵の軒先に飾られる杉玉

 

アメリカから日本へ、そして今では伏見に暮らしているジェイソンさんに酒の楽しみ方を尋ねると「酒の楽しみ方は人の数だけ。無限にあるんですよ」と教えてくれた。海外の方にとって日本酒は「寿司と一緒に飲むもの」との固定観念があるようだがと前置きをして「例えば、パスタにも日本酒はよく合います。白ワインのようにね。もともと京都の日本酒は食中酒として作られています。さまざまな料理と一緒に飲んで、味と味の出会いを楽しんでほしい。日本酒用の小さな器、おちょこを選ばせてくれる店もあるので、器を変えてその味わいの変化を楽しむのもおもしろいですよ」と笑う。自身もたくさんのおちょこを集めているそうだ。

「最近ではシャンパンのような微発泡酒や色が変わるほど長期間熟成させた古酒もあります。伏見の日本酒は17世紀にはすでに現在に近い方法で作られていました。その伝統を大切にしつつ、新しいものも生み出している。古いものと新しいものとの融合、これは京都特有の気質かもしれませんね」と増田さん。日本酒づくりは8世紀ごろに渡来人がもたらしたと伝えられている。1000年を越す長い歴史を経てもなお、日本の人々は神様に供え、祝い事には日本酒を飲む。京都市には、日本酒での乾杯を勧める条例もあり、日本酒は人々の生活になくてはならないものだ。日本での食事の際には、ぜひ日本酒を楽しんでみよう。

 

 

■増田德兵衞
にごり酒「月の桂」で知られる1675年創業の増田德兵衞商店第14代当主。2008年より日本酒造組合中央会・理事および海外戦略委員長。近畿酒造組合・理事、伏見酒造組合・理事長を務め、国内外の日本酒の普及に努めている。

■Jason Davidson
アメリカ・ミネソタ州出身、1999年来日。伏見の魅力にとりつかれ、伏見を拠点に日本酒の魅力を伝え、日本酒を楽しむ「JD会」主催している。ほかに、日本の家庭料理をつくる教室や食べ歩きツアーも実施。
http://jdkai.com/

 

▼株式会社増田德兵衞商店
住所:京都市伏見区下鳥羽長田町135
TEL:075-611-5151
営業時間:9:00〜17:00
定休日:日・祝祭日(4月~9月の土曜日)
http://tsukinokatsura.co.jp

▼伏見酒造組合の酒蔵
http://www.fushimi.or.jp/sake_guide/

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